中国で最近流行っている言葉のひとつに「内巻(ネイジュエン)」というのがあり、その定義はこんな感じです。
内巻とは、学校、職場、社会生活などで、非理性的な競争が繰り返され、その結果、競争が激しくなるだけで、誰も勝者になれない
自分も深センで働き初めて1年以上経ち、仕事の中で顧客やパートナー及び競合企業のやり口を見ていても、これが「内巻」かと思うことがよくあります。例えば顧客やパートナーから非理性的な要求があってもそれを競合が受け入れてしまったり、そうなると自分も対抗しないといけなくなり、それがどんどん加熱して結果全員が苦しんでいるという感じ。
ちなみに娘をローカルの学校ではなく高い学費を払ってインターに入れるのも、(もともと香港戸籍だと中国のローカル学校に入れないという前提もありますが)娘を小さな頃からこういう過当競争に巻き込ませたくないという気持ちが大きいです。
でも、考えてみるとなんだかこの無駄で非理性的な競争で誰もハッピーになれないという構図はどこかで見たことがあることに気づきます。
そう、日本です。
もはや外国から見ると物価が低くて顧客サービスのレベルが高く旅行先として人気の日本ですが、それはつまるところ顧客の過剰な要求と過当競争に参加して対応し続ける「内巻」な日本企業文化の賜物。安くてレベルの高いサービスを受けられるのは消費者としては良いかもしれませんが、サービスを提供する側にとっては安い給料で高い要求をされてたまったもんじゃないし、それが行き過ぎたのが一斉を風靡したブラック企業です。
バブルの頃から日本企業には「内巻」なモーレツ文化があり、バブルが崩壊して失われた30年を経てもその傾向はなかなか歯止めが効きそうにない気がします。それに疲れた結果が草食化とか低欲望社会といった言葉と繋がってくるのだと思いますが、中国にもこれらの言葉と似た「躺平(タンピン)」という言葉があり、意味は「横になる」つまり「内巻」な世界に疲れて、もう諦めて頑張らない、低欲望な生活を送るということです。
これに対して中国政府は過剰な学業競争を止めるために幼稚園と小学生低学年への公立学校での宿題禁止と全ての塾の非営利化をぶち上げました。そしてもちろん即刻施行なので、家の近くにあった学習塾が突然閉まったり、幼稚園からアンケートが送られてきて宿題はありますかと聞かれたりして、このスピードにはいつも驚かされます。
これが内巻を止めるのに効果があるのかは分かりませんが、上に政策あれば下に対策ありの中国だし、結局は大学受験という目標に変わりはなく比較が大好きな人間の心はそのままなので、この政策で皆がコロッと学業はそこそこにチルな生活を送り始めるとは思えない次第です。
娘がHKISの小中に行ってた時のルールは、「2時間以内で終わる宿題しか出さない」だったのを覚えてます。それ以上に宿題を出すと、教師がペナルティを受けたとか。「躺平」はよ〜くわかります。1980年に中国に留学した時に、当時の中国人大学生の勉強のハードさには驚嘆しました。「公立学校での宿題禁止」など、「十年树木,百年树人」とは真逆の愚策です。習さん自身が、「子供の時にもっと勉強しとけばよかった」と思ったことがないのですね、残念です。
習さんが「子供の時にもっと勉強しとけばよかった」と思ったことがないかは分かりかねますが、もとは結構なエリートの出身なので子供の頃から勉強はしてたんじゃないかと想像します。
この政策はむしろエリート教育を強化する方向で、頭の良い子、教育に投資できる家の子は勉強し、そうじゃない子、余裕のない家庭の子は家計も圧迫するしそんなに勉強しなくても良いよという事だと思っています。現状の全員参加の過当競争がコレで緩和されるとも思えませんが、政府としては高学歴の人が増えすぎても仕事の数が足りないということで選抜されたエリートだけが高等教育を受けて、それ以外は専門的なスキルを身につけるというドイツ的なモデルを目指しているようです。